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福岡→長崎、路線バスの旅〈後編〉◆前編 ◆後編 ◆資料編
 福岡から長崎まで、路線バス(除く高速バス)だけで行ってみた旅の記録。
前 回 ま で の あ ら す じ 。
 ある日唐突に「路線バスだけで長崎に行ってやる!」と思い立った筆者。台風の翌日に出かけたもんだからトラブルの連続…なんてことは無く、ごく普通に ─辿ってきたルートを除いては─ 佐賀駅バスセンターに降り立ったのであった。
 しかし、これまで乗ってきたバスは西工ボディの安普請。そのおかげで筆者の身体はボロボロだぁ!これからのルートで耐えられるのか?(特に腰)
 5.佐賀駅バスセンター→鹿島バスセンター (祐徳バス 鹿島中川行 乗車時間66分 運賃860円)

佐賀駅バスセンター

ヒノキの香がただよっていた。
 佐賀駅バスセンターは以前佐賀県大和町に行った時に来たが、あの薄暗い陰気な場所が、見違えるほど綺麗にリニューアルされていた。
 待合室の床面にはヒノキ材がふんだんに使われ(佐賀県産との由)、案内も現代風のすっきりしたものなっている。

この看板は昔のまま。
 以前の面影は外にある看板くらいのもの。…はっきりいってS・A・G・A佐賀〜♪なダサイ佐賀とは思えない洗練された場所だ(失礼)。

 この旅を始めるにあたって、私は事前にバスのダイヤを調べた。西鉄バスと長崎県営バス、それに甘木観光バスの田主丸線のダイヤは分かったが、ここから先に乗ることになる祐徳バスのダイヤはまったく分からなかった。 ─後になって考えると、九州旅行案内社の「綜合時間表」を購入すれば分かったはずなのだが─ 県界バス停に18時29分までに着けなければこの旅は中途で終わってしまう…などと思いつつ、祐徳バスの発車時刻表を見ると、ほぼ毎時00分発の1時間ヘッドであった。
 あとは鹿島から先だが、それは着いてから考えよう。無理と分かれば適当に祐徳稲荷にでも行って、JRの特急で福岡に帰ってしまえばいい……

 発車まで大分時間があるのでしばらくバスを撮ったり、駅構内の積文館に寄ってみたり。ハリーポッターの新刊発売前日と言うことで、8時売りの告知が大々的になされていた。しかし…コミックを平台に無理矢理3列に並べるのはどうかと…確かに気持ちはわかるが。

福岡-佐賀間の高速バス「わかくす」号。1時間ほどで全行程を走破する。…高速って早いね…。

多久方面や大和町方面に路線を持つ昭和バス。ちなみに以前大和町に行った時はもっと古くて渋い車輌が使われていた。

佐賀市営バス。右上の昭和バスと同じ車種だが、塗色が違うだけで印象が大分違う。

祐徳バスのエルガミオ。モラージュ佐賀へのバスとして使われている。寸詰まりな感じで可愛らしい。

もういっちょ、佐賀市営バス。市営バスは割といろんな車種が使われていた。…昭和バスの多彩さには負けるが。

佐賀市営のノンステップバス。結構たくさん居た。こういう車輌が多いのは公営ならではか。

昭和バスの西工ボディ。昭和バスのカラーはどんな車体でもよく似合う気がする。

今日もブラックモンブランは健在!
(ブラックモンブランは佐賀産なのだ)

鹿島行き祐徳バス。富士重工製の車体特有のバンパーがイカス。この旅で見かけた祐徳バスの車輌は皆中型か小型車体ばかりであった。
 しばらくしてバスセンターに戻ると、既に鹿島行きのバスは停まっていた。クリーム色とえんじ色の車体に、銀色の「誠」の文字のエンブレムが入ったデザインはなかなか渋くて良い。この「誠」のマークは運転手さんの制帽にもしっかりと付いていた。

 12時44分、佐賀駅バスセンター発。結構建物のある国道207号を走る。久保田駅前を過ぎてやっと田園風景に…と思ったら、牛津駅前あたりで国道34号との重複区間へ、4車線の広い道だが、交通量はそれほどなかった。肥前山口駅の手前で旧国道に戻り、駅前へ。駅前には「最長片道切符のゴール駅」という旨の看板が立っていた。
 左に折れて田園地帯のまっすぐな道を一路鹿島へ。途中通った「干拓道(かんたくみち)」というバス停にこの地の歴史を感じる。13時50分、鹿島バスセンター着
 6.鹿島バスセンター→県界 (祐徳バス 県界行 乗車時間53分 運賃690円)

鹿島バスセンター

看板の文字がイカス。
 鹿島バスセンターは、祐徳バスの名前の由来の祐徳稲荷のお膝元ということもあってか、そこそこの大きさのビルであった。
 バス乗り場には、しっかりと県界行きの案内板が下がっていた。時刻表を見ると、思いのほか本数が多く、大体毎時30分発のようである。これで旅行中断の不安は無くなった。

鹿島バスセンター(3)のりば、県界方面ゆき。
次のバスまで時間は大分ある…。

 近くを散歩してみると、リンガーハットを見つけた。腹が減っていたこともあり、昼食をここでとることにした。…現在14時20分。間に合うだろうか。お代を払って店を出て戻ってみると、案の定県界行きのバスがちょうど出た後であった…。

お願いだ、待ってくれ…往かないでくれ………
 きっとこれは長崎に着く前に長崎ちゃんぽんを食べた呪いだ!呪いに違い無いんだ!!


肥前鹿島駅。駅のそばには「再耕庵タクシー」という、なかなか趣のある名前のタクシー会社の営業所があった。
 …仕方が無いので鹿島駅の方に行って時間をつぶす。改札口の時刻表を見ると、特急が毎時2本に対して、普通列車は毎時1本といった所。特急が停まるだけこの駅は大分マシなのだろう。
 今度はちゃんと15分くらい前にバスセンターに戻る。バスの時刻表を貰う。トレーシングペーパーのような薄い紙に、祐徳バスの全路線の主要なバス停の時刻が記してあった。

祐徳バスの路線図。鹿島を中心に嬉野温泉や武雄温泉などに路線が伸びている。

県界行き。疲れが出てきたのか、このあたりからブレや構図の悪さが目立ってくる…。
 ちょうど定刻くらいにバスが到着。中に入ると…カーラジオが流れていた。チャンネルは、福岡のRKBラジオ。恐らく地元の局よりも有明海の向いの大牟田の局の方が受信状態がいいのだろう。
 15時32分、鹿島バスセンター発。乗客は私一人。しばらく走ると数人の乗車があった。

車内より有明海を望む。
しばらく鹿島の町中を走り、小さな干拓地と山の間を通り、「海洋センター前」というバス停を過ぎると…、海と山に挟まれた海岸線をくねくねと走る道、申し訳程度の防波堤、潮風によって真っ赤に錆びたバス停のポール…絵に描いたようなローカルバスの光景がそこにはあった。
 いくらか乗り降りはあったものの、乗客はまた私一人に。途中太良高校の正門前を通る。部活動をしている生徒はいたものの、バスに乗る学生は居なかった。この夏休みの間、この路線の運転手はほとんど一人で、この海岸沿いの道路を往復していたのだろう…。
 途中国道の旧道に入り、破瀬の浦という場所に寄る。山に抱かれた湾内には漁船だけ、人の姿は見えなかった。

破瀬の浦。湾をぐるりとかこんだ狭い道をゆっくりと走って行く。自家用車では見のがしてしまう光景。
 肥前大浦あたりから山あいに入り、山を抜けたと思ったら再び旧道へ。坂道を降りていき川のそばまでやってきて、停車。そこが終点「県界」であった。16時25分、県界着。やっと、この旅で最も来たかった場所に着いたのだ。

県界到着。私を降ろしたバスはすぐさまそばの旋回場に入って行った。そばには廃車体があったりして素敵な寂れた雰囲気(この写真ではバスの手前の物体)。

 7.県界→諫早ターミナル (長崎県営バス 諫早駅前行 乗車時間49分 運賃710円)

「長崎県」の標識と、佐賀県側から見た友尻橋。橋の左側に標識が建っているのが見えるだろうか。
 県境というものは、分水嶺や大きな川に設定されることが多いが、ここではごく小さな川が県境となっていた。
 その小さな川に、友尻橋という県境を越えるこれまた小さな橋がかかっている。その橋の長崎県側のたもとには、錆びきって崩れかけの「長崎県」の標識が立っていた。
 その橋を渡って長崎県営バスの県界バス停へ行く。傾きかけた小屋(一応待合室らしい…)のそばに色褪せた標柱が立っていた。時刻表を確認すると、次のバスまではかなり時間があった。

県営バス県界バス停より、佐賀県を望む。小さく写っているのが祐徳バス。

これが「傾きかけた小屋」。よく見るとこの写真自体が傾いているではないか。いよいよ疲労が限界に達してきたようだ。

「県界」付近の全体像。左が長崎県(少し見える赤い物体が県営バス)、中央の橋が県境に架かる「友尻橋」、右側が佐賀県(この写真では祐徳バスは写っていない)。

こちらが祐徳バスの県界バス停。どちらのバス停も、寂れた雰囲気の割にはバスの本数が多いように感じた。
 再び橋を渡って佐賀県に戻る。こちらの祐徳バス県界バス停は、金物屋の前に立っている。県営バスの物と比べて、標柱自体は新しそうだ。
 あたりの光景を撮ったりしているうちに、橋の向こうに赤いバスがやって来た。長崎県営バスだ。下車客も無く、そのまま旋回場で停まった。しばらくすると、こちら側の祐徳バスが動きだし、バス停の前で一旦停車してドアを開けるも、乗車する人は一人も居らずそのまま鹿島へと走り去っていった。一応接続ダイヤなのだろうか…。

 祐徳バスが走り去ってもまだ、県営バス発車までは時間があるので、ムツゴロウを撮ったりして過ごす(撮ったはいいが、ただ泥を撮ったようにしか見えないので写真は省略…)。地元のオバちゃんが何事だろうかとこちらを見ながら長崎県から佐賀県へと歩いていた。

諫早ゆき県営バス。4枚折戸のドアでありながら、窓の方は大きな引き違い窓に横引きカーテンという、なんとなく独特の仕様。

これが"フルーツバス停"。…おや、室内ミラーに筆者が写り込んでいるではないか。
 県営バスの車輌は、こんなローカル線だというのに大型車でしかも中扉が4枚折戸という都市バス仕様であった。
 17時11分、県界発
。いきなり道路に張り出した木の枝をガサガサッと押し退けながら旧道を抜ける。この時点の乗客はやっぱり私一人。ほとんどのバス停には乗客は無く走り去る。…ところでこの「バス停」、非常に変わった形をしている。なんと果物の形をしているのだ。小長井町にあるバス停の多くはこの形なのだとのことで。
 小長井町から高来町に入ると、あの名高い諫早干拓の堤防より内側になる。乗降があまりにも少ないせいか、時間調整の停車を何度も繰り替えしながら西へと進む。と、このあたりで疲れがどっと出て来たのか、眠りに落ちる…………目覚めると、バスはもう既に諫早の市街地へと入っていた。長崎や佐世保が坂の多い街とは知っていたが、諫早も同じように坂の多い街であった。…まさかとは思うが、歴史上の人物に好き好んで坂の多い街を造った輩が居るのではないかと邪推してしまう。部活動の帰りだろうか、多くの学生を乗せて18時丁度に諫早ターミナル着
 8.諫早ターミナル→長崎駅前 (長崎県営バス 長崎駅前行 乗車時間78分 運賃860円)
 諫早バスセンターは独特の造りをしていた。待ち合い中に排ガスに晒されないようにガラスで仕切られているのだが、待合室からバスへと乗るための扉が自働ドアでも引戸でもなく、開き戸なのである。こんな構造のバスセンターは初めて見た。しばらくバスセンターでゆっくりしていたかったが、間もなく長崎駅行きのバスが来たので乗ることにした。18時5分、諫早ターミナル発。…諫早バスセンターの滞在時間5分。

諫早バスセンターに掲げてあった路線図。ちょっぴりレトロな感じが非常にイイ。ちなみにこれが諫早で撮った唯一の写真である…。
 このバスも県営バスだが、先ほどのとは違って、前後扉の車輌であった。後ろ扉の車輌を見ると、長崎に来たなぁという感じがする。しかも青地の行先表字幕、これも長崎っぽくていい。しかし…このバス、ギミック満載でステキである。
ギミックその1:運転手さんがブレーキを踏むと運転室仕切り上方に「急停車にご注意」という表示のランプが灯る。この仕掛けは堀川バスでも見たことがあるが、さらに…

これが件の表示器。こういう乗客への配慮の多さは公営バスならではなのか?
ギミックその2:ウインカーを点灯させると、それに連動して「<左」「右>」の表示が急停車表示の左右で点滅する。これは初めて見た…ウインカー完全連動なので、道を譲った後ろの車に挨拶する時もが同時に点滅!
ギミックその3:お客さんが停車ボタンを押すと、降車口上方の表示器がモーターで回転して「つぎ・とまります」の表示。運賃表示器のLEDで知らせるとかじゃ無いんですよ。あくまでもアナログな表示!
 そして極め付きは「日本初の共通ICバスカード」という触れ込みの長崎スマートカード。ソニーの「FeliCa」の技術を使っているようで、乗車時も降車時もリーダーにかざすだけである。普及率はなかなかのようで、女子学生などは思い思いのパスケースに入れたままリーダーにかざしていた。
 話題を車窓にもどそう。
ここらへんからあたりは暗くなるわ、身体はへとへとだわ、そんなんで写真が全く無いのだがご了承戴きたい…。
 西日を浴びながらバスは進む。8月とはいえ、もうすでに補習などは始まっているようで、学生の乗客が多い。長崎の学生は自転車通学をしないというから、これでも少ない方だったのかもしれないが。国道34号線を進み、市布を過ぎると一旦国道を離れ、つつじが丘とという新興住宅地に入る。しかし…福岡人にとっては、これまでの車窓で既に新興住宅地のような急坂だというのに、どんな所なのだろう。興味深々で外を見ると、バスが通るのが不思議なくらいの急坂。しかも無理矢理道を造ったと見えてカーブが多い。しかし当然ではあるが運転手さんも乗客も何事もなく平然としている。…なるほど、長崎の学生が自転車通学をしない理由が分かった。こんな急坂死ぬわ
 転がり落ちそうなつづら折りの道を降りて再び国道34号線へ。しかし…なんとも不思議な風景である。地形自体はなにも変哲のない山あいの地形だ。普通なら谷底の川沿いに田圃が拡がる農村なのだろう。ところがここは谷底から山の上まで、斜面にしがみ付くように住宅が立ち並んでいる。気がつくと、太陽はもう山の向こうに沈んでいる。
 私はこの旅を始める前に地図を見て、この路線は「延々と山道を行く都市間連絡バス」だと勝手に思い込んでいた。地図にはきつい等高線や長いトンネルが描かれていて、住宅地だとはとても思えなかったからである。その長いトンネル ─日見トンネル─ の手前には信じられない光景が拡がっていた。
 地形はいよいよ険しくなり、斜面は崖に近くなっている。それでもその斜面の少しでも緩い所に平面をつくり、そこに住宅を作っている。その家にアクセスするための細い急な階段がジグザグに伸びている。そんな家々が山の上の方までびっしりとこびりついている。階段はまるで蜘蛛の巣をかけたようだ。
 バスが走る道路の右側は崖になっている。崖の底の方にも住宅が見える。それだけでは無い、底から高層マンションがいくつもそびえている。崖の下の家のものだろうか、道路から張り出して人工地盤をつくり、駐車場にしている。崖の底から建っているマンションの屋上が丁度道路と同じ高さで、そこを駐車場にしている例もあった。
 はっきりいってこの景色は現実世界とは到底思えない。かすかな残照と、建物の光が入り交じって、ここは今、まさしく幻想世界である。ここに似ている場所を知っているとすれば…佐藤明機氏が「楽園通信社綺談」や「ビブリオテーク・リヴ」で見せたメインランドの世界がそれだ(ちなみに現在両方とも絶版)。
 道はいよいよ"本来の"山道になり、高速のインター入り口を過ぎると長いトンネルに。そこを抜け、急な坂道を下ってゆくと…、長崎電気軌道の蛍茶屋停留所だ!やっとここまで来れた。そして初めて知った。私が知っている長崎は、路面電車が登れる緩い坂道の範囲だけだったんだ、と…。
 19時15分、中央町。ここでほとんどの乗客が降りる。私は終点まで乗っていよう…。県庁、市役所とジグザグに寄り道をして、19時23分、長崎駅前終点着

長崎駅前にて。今回の旅の最後のバス…ではあるが、ご覧の通りブレまくり。真ん中の赤いのがそれだと脳内補完していただきたい…。

エ ピ ロ ー グ

長崎駅前の歩道橋にて。路面電車がちょうど到着。
 バスを降りて、ペデストリアンデッキに駆け上がろう…としたが、身体が言うことをきかずまるで老人のようなスローなテンポで昇る。
  …すると目に飛び込んでくるのはいつもと変わらないはずの長崎の夜景。鉄道で来ようがバスで来ようが、この光景は全く変わらない。だが、いや、だからこそ、この夜景を見て達成感が感じられるのであった。

 そして、達成感と同時に、また新たなバス旅をしたいな、と思い始めている自分が居た。ここから軽く風頭まで夜景を見に行くのもいいだろうし、野母崎の先端へ夕日を見に行くのもいいだろう…。再び東に向かって島原まで行って、フェリーで大牟田に渡ろうか…。
 …でも、今日はここで旅を終わりにしよう。バスに乗り過ぎて、身体がミシミシ言うような状態だから。

 帰りの白いかもめの座席が、こんなに柔らかく感じられたのは、初めてだった。

 福岡→長崎、路線バスの旅 終 
よろしければ資料編もお楽しみ下さい〜。

著 者 紹 介D.Na - でぃ・えぬえい
当サイト「九州電波通」の管理人。職業は引きこもり兼アルバイター、要するにダメ人間。
2004年1月現在の最萌キャラは「ねこきっさ」のルーシア先輩
トップ特集福岡→長崎、路線バスの旅
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